むあ文庫の本08「水のかたち」

2020/3/5

「水のかたち」
たくさんのふしぎ 2003年1月号(第214号)福音館書店
増村征夫 文/写真

わたしたちにとって最も身近な自然である「水」の様々な形を撮影した
今は絶版となった写真絵本です。

冬の朝、窓の外を見て一面真っ白な雪景色にわぁっと声を上げるのも、大きなつららの形が面白くて見て見てと人に教えたくなるのも、空いっぱいに広がるうろこ雲を立ち止まって見上げるのも、水が繰り広げる圧倒的なスケールの姿に驚かされるからでしょう。細い枝先に張った蜘蛛の巣に連なる水滴や、ルーペで覗く雪の結晶の形に魅せられるのも、その小さな世界に広がる限りなく精緻な水の姿に驚かされるからでしょう。一輪の美しい花を見て、何だスミレの花か、と思った瞬間に、もうその花の形も色も見るのを止めてしまう、と言ったのは文芸評論家で作家の小林秀雄ですが、「水」というありふれたものを前に、雪か、積乱雲か、何だ霧か、と眼を閉じずに、そのなんとも言えない美しい感じのまま黙って見続けることで見えてくる世界があります。そんな世界を発見する喜びをもって撮影されたような写真の数々に、この撮影者の高揚感まで伝わってくるようです。「子どもだけでなく、大人にとっても「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない」と海洋生物学者のレイチェル・カーソンはその著書『センス・オブ・ワンダー』の中で言いました。 知っていたはずの空の色を忘れ、覚えた雲の名前を忘れ、星座の位置を忘れて、ただただ空を見たときに現れる、まだ見たこともないような美しさが目の前の景色や足元に隠れていて私を待っている。「見る」ことで、限られたこの世界の景色が広がっていきます。そして、私はまだまだ何も知らないのだということにあらためて気づくのです。