2021/3/23
「きこえる?」
はいじま のぶひこ/作(福音館書店/2012年出版)
私を呼ぶ声。その声の主を想像したとき、思い浮かぶ人がいます。その声色、私の名前の呼び方やスピード、情景を思い起こしてみると、私と彼女あるいは彼との確かな時間があったことを思い出します。『「わたし」は世界の中心ではない。「あなた」から語りかけられるときに初めて「わたし」が生まれるのだ。』と言った哲学者がいました。わたしを取り囲む世界の音を聞こうとしたとき、「きこえる?」と自分に問うた時に初めて聞こえなかったはずの音、花が開く音、星が光る音が聞こえるのかもしれません。
原正和/著「お父さんとお話のなかへ」という童話があります。生まれた子どもにどんな名前をつけるか悩み、旅に出た男が旅先で出会った人に「大切なのは名前じゃないよ。つけた名前をどれだけたくさん呼ぶかさ。」と言われます。私の周囲に息づくものの気配、私の名前を呼ぶ声の、その向こうに立つ人の息づかい、そして私自身の生きる音が、この「きこえる?」という絵本からは聞こえてくるようです。