こどもとおとな

2021/8/25新聞掲載

 「大人だけで伺ってもいいでしょうか?」と再開当初の頃はよく聞かれました。それは蔵書が絵本や児童文学書によるところからだと思います。老若問わずこの時代を生きている誰かに読んでもらいたいと再開した文庫。様々な年齢層の方に来てもらいたい、子どもを子ども扱いしない、と決めて始めました。大人と同じ椅子に座り、大人と同じグラスで飲み、静かに読書することを意外と子どもも楽しんでくれているようです。

 絵本は多様で、中には子どもへの教育目的で書かれたものもあります。しかし、そうでない絵本もたくさんあります。絵本や児童文学で言われる「こども」というのは何歳までを言うのか、「おとな」の中の「こども」を言うのか。「こども」、その正体の無さに翻弄されて、絵本がある場所に大人だけで立ち入ってもよいのかどうかという小さな混乱が生まれるのだと思います。
 「指輪物語」で有名なJ.R.R.トールキンが、20年以上にわたりサンタクロースになりきって自身の子どもたちのために書いた手紙を収録した、「サンタ・クロースからの手紙」という絵本があります。絵本「こねこのぴっち」の作者ハンス・フィッシャーの絵本は、すべて自身の3人の子どもたちのために作った手製本が元になっているそうです。大人が自分の子どもに向けて書いた、そんな絵本も中にはあり、それを知ると子どもも大人もまた違った楽しみ方ができそうです。
正体不明の「こども」という何かに合わせるよりも私自身が心動くものを指針にしようと思っています。子どもでも大人でも、「本が好き」な人のことを考えながらこの場所をつくっています。

◆ 2021年4月から毎月、某新聞紙において連載中のエッセイです。
むあ文庫をご存じない読者を想定した自己紹介的な目的もありますので、過去のブログの内容と重なる部分もあります。