本を並べる

2022/2/25新聞掲載

 草むしりをしていて、残しておきたい雑草と抜いてしまいたい雑草とがあります。白い小さな花をつけるハコベや黄色いカタバミなんかは残しておきたくなりますが、抜いても抜いても生えてくるヤブガラシやポンポン草と呼ばれるカラムシなんかを見つけた時は、すぐに引っこ抜きます。掃き掃除をしていても、ノウゼンカズラやツバキなどの丸ごと落下する花なんかは、地面にそのまま残しておきたくなります。ハクモクレンの一斉に散る白い花びらなんかは、落ちて一面真っ白になった地面が見たくて待ち遠しいほどだったりします。

 たくさんある文庫の本ですが、世の中にある幾多の本の中から選んだものが並んでいます。そしてその文庫の中からさらにテーマに沿った本を選んでカフェ店内に並べています。定期的に変わるそのテーマは例えば、夜の物語、食べる物語、冒険する物語、色と形の物語、二人の物語、閉じない物語など。どのように、その本を分類し並べるのか、というのは並べたその人が世界をどんな風に見ているのかということでもあります。アフリカに、牛の色を見分けるのが得意な部族がいて、子どもの頃から牛の色に合わせて小石を色分けして遊んでいるそうです。「つまり人間は、身のまわりにあるごちゃごちゃあるものを、ほんとにあつめたり、頭の中であつめたりして、それをグループに分けることをくりかえしながら知恵をつけてきた。人間の学問とか文化はそうやってそだってきたのだ。」森毅/著「分類ごっこ」より。選んだ雑草ひとつ、残した花ひとつで作られていく風景と、選んだ本、並べた一冊によって構築されていく小さな文化があります。

◆ 2021年4月から毎月、某新聞紙において連載中のエッセイです。
むあ文庫をご存じない読者を想定した自己紹介的な目的もありますので、過去のブログの内容と重なる部分もあります。