本を選ぶ

2022/1/25新聞掲載

 100年ほど前のカナダであった本当の話を元にした「森のおくから」レベッカ・ボンド/作という一冊を入庫しました。森で起こった山火事の中、湖に入って共に難を逃れた人間と獣たち。水の中、オオカミがシカの隣に、ウサギがキツネのそばに、人間と動物たちが身体が触れるほど近くに立って生き延びたという物語です。
 むあ文庫では、定期的に新しい本を入庫しています。何を指針に本を選ぶのか、いつも悩みながら選書しています。昨年から安房直子さんの本を少しずつ増やしています。作品に描かれる主人公の多くはひとりぼっち。家族を殺されて一人で暮らす熊、一流企業を退職した人づきあいが下手な男、楽しそうに騒ぐ友だちの横で砂漠の中にたった一人で座っているような気がしている女の子、ストーブをたく石油すら買えない貧乏な売れない絵描き。生気が弱っている時や、辛い現実を前にする中で出会う不思議な動物や植物たちや身の回りの物たちとの物語を読んでいると、人は一人で生きているのではなく、隣に立つ木や庭に立ち寄る猫、拾った貝殻や気に入っているスカーフなんかと一緒に今を生き、生かされてもいるのだという、そんな主人公たちの姿に気づきます。

 苦しいことがあっても困難にぶつかっても、最後には、この世界は大丈夫なんだ、生きるに値するのだ、とそう感じられる本を選んでいるように思います。それが今日を生きる力になり、そしてまた優しくもなれるのではないかと思うのです。

◆ 2021年4月から毎月、某新聞紙において連載中のエッセイです。
むあ文庫をご存じない読者を想定した自己紹介的な目的もありますので、過去のブログの内容と重なる部分もあります。