リンゴの時間

 2021/10/25新聞掲載

 リンゴは食べても美味しいですが、焼くときの甘酸っぱい香りを嗅ぐことは、私にとって食べることと同じくらい魅力的です。砂糖とバターをフライパンの上で焦がし、リンゴをふつふつと煮からめます。すると、ふっくらとふくらんだリンゴがつやつやと輝きだします。そしてゆっくりと、リンゴの甘酸っぱい香りが部屋中に広がっていくのです。

 むあ文庫では読書のおともに、と飲みものだけでなく手製のお菓子も出しています。冬は庭で採れた金柑や柚子を使ったケーキ、春は近くの苺農家さんの新鮮な苺を使ったパブロバ、夏は庭で採れた梅で作った梅ジャムや梅酒漬けのイチジクを使ったケーキ。そして秋には、減農薬栽培の紅玉リンゴを使った、アップルクランブル。幼少期に西オーストラリアのパースに家族で住んでいた頃に出会った大好きなお菓子アップルクランブルは、母が大きな楕円の焼き型でよく作ってくれました。そんな幼少期への懐かしさも伴ってか、そのかぐわしい香りには毎年心動かされます。現地ではオーストラリア原産のグラニースミスという黄緑色の酸っぱいリンゴを使いますが、日本では流通量が少なく、同じように甘酸っぱい紅玉を使っています。ふっくらとふくらんだつやつやのリンゴが焼き皿に並び、熱々のうちに冷え冷えのアイスを添えてザクザクのクランブルと一緒にスプーンでバクバク食べるアップルクランブル。心躍るリンゴの時間が今年もやってきました。

◆ 2021年4月から毎月、某新聞紙において連載中のエッセイです。
むあ文庫をご存じない読者を想定した自己紹介的な目的もありますので、過去のブログの内容と重なる部分もあります。